by 企画管理課
日 時:平成24年7月13日 午前10時〜14時
会 場:中標津町 根室農業会館3階会議室
出席者:22名
座学研修(1)
「農場経営と労務管理を語る」
有限会社 西上加納農場(士幌町) 代表取締役 加納 康司 氏
[はじめに]
自分は畑と人事管理、弟である専務が酪農畜産をそれぞれ担当しており、極力お互いの持分に係わらないようにした経営スタイルとしている。なぜならば、みんなでバラバラの事を言ってしまうと従業員からの信用がなくなってしまうからである。
どんな会社でも従業員がいて経営が成り立っている。今回の出張についても、それぞれのポジションに責任者がいるので安心して出張ができた。従業員に支えられている事に感謝しているし、そういった信頼関係を結ぶことが大切である。
実習生・研修生という名目、低い賃金で雇い食事を与えれば良いという時代は終わった。会社では職員との労働協定も締結しているし、各種社会保険や中小企業退職金共済にも加入している。
畑、肉牛、乳牛とセクションごとに仕事をしているが、互いに自分が一番大変な仕事をしていると思っているため、セクションを超えた人事交流をさせている。また、畑作の従業員を12月から3月末まで酪農業務に配置させる事で夏場:4週5休、冬場:4週6休を可能にし、有給休暇も付与した中で労働バランスを調整している。(休日を充実させなければ長続きしない。)
従業員を雇うということは、自分がそれ以上に経験していなければならないし、今従業員が何をしているのか頭に描くことや気配りができないといけない。従業員は天候がどうであれ自主的に働いてくれるのだから、経営者がいちいち口を出し指図すべきでない。そのセクションの中心的リーダーに任せることが大事である。
[現在に至るまで]
父親は炭焼きから始まったが、農協と相談して土地をどんどん購入していき畑作を拡大していった。その後、息子らが受け継いだが、兄弟共に結婚して第3者である妻が加わると、辛いとき相手の悪い面しか見えなくなってしまう事に気付き、このままでは共同経営が成り立たなくなると感じて肉牛部門を設立し、兄弟の担当を分担する事とした。しかし、100%輸入飼料であった事と将来を鑑み、平成16年から乳牛部門も設立することとなった。
[従業員募集関連]
従業員の募集方法は、リクナビを通すと一番集められるがお金が高いため、一次産業ネットより新卒者を募集している。農業経験者は経験がある故に意見が合わず、雇うなら未経験者の方
が良い。また、採用しているのは大卒者が多いが農学系に拘っていない。現在はどんな企業でもPCやネットが主流であるため、その部門に長けている人材を採用することが肝要である。牛の管理が良くても人の管理ができないなど、単なる労働者時代は終わったと感じている。
家族労働から投資して共同経営による法人を選択した場合、みんなが社長気質のまま経営していくと必ず失敗する。代表者を決定して完全に任せることが大事だし、代表者以外の者は代表の方針についていくことが重要である。
30歳前後の募集者(転職者)は落ち着きがあり真面目である。新たな分野にチャレンジしたい気持ちがあり、面接時に熱意があれば採用する。
[コミュニケーションの重要性]
自社のパーラーでは1回の搾乳に6時間かかり、自分も経験したが労働力は非常に大変であり、大変であることが判っているからパーラーに行って従業員に頭を下げるのが自分の仕事と思っている。
人件費はケチるとうまくいかないし、優秀な人間には賃金をケチらない。従業員と社長であっても互いに人格があるのだから、常に挨拶を交わすことが重要である。自分は牛舎にいったら草刈りや掃き掃除など環境整備に尽くすようにしており、その際に会った従業員と挨拶したり会話したりしている。社長が黙って立っていては従業員が緊張するだけである。一番自然に見える従業員とのコミュニケーションが重要である。
[責任者の配置]
人対人の関係に年齢等は関係ない。現に自社の農場長は20代の青年であり、彼より年上の従業員もたくさんいるが、彼の指示に従って業務にあたっている。彼は15人の従業員と900頭超の乳牛を管理している責任感の強い男であり、全ての業務ができるが大半は管理室に座っている。しかし、今日も5頭分の飼料が残っており食いが悪い牛がいると電話がかかってきた。なぜなら彼は責任者として全部を管理して見ているからである。従業員を雇用している農場でうまくいっていない所には「誰に聞いて良いのかわからない。」という責任者不在型が多くみられる。
[理念と方針]
理念1.地区の役に立つ。理念2.人材を育てる。であり、方針は「自分で考えろ」である。雇用しているところで失敗しているところは必ず経営者が口出ししている。しかし、実働者には敵わないはずである。自社は「考えたことを黙ってやってはいけない。」「やっていいかは言え。」としているため、従業員たちが積極的に考え意見を伝え自ら工夫をしている。
[従業員である家族の取扱い方]
他の農場では経営者の子供たちが比較的上位の立場になっている事が多いが、従業員の待遇に差を付けてはいけない。他の従業員と同じ一従業員として公平に取り扱うことが重要である。(娘、婿も農場長の部下)
[広いスペース]
機械も採用したばかりの従業員に直ぐ乗ってもらっている。柱にぶつかるなどの事故もあるため、初心者が運転することにも配慮した広いスペースを確保している。そういった気遣いも必要である。
[最後に]
従業員を雇用している法人はコストにあまいと深刻。自社は1頭当たり飼料費50円のコストを確保するか失うかの判断も細かく計算している。経営者はバランスシートを常に頭の中に置き経営策を考えていなければならない。また、無駄な時間をなくすためのチームワークや効率性、従
業員が働きやすいような特別な仕組みや生産をあげる仕組みをつくることも必要である。雇っている以上、従業員の生活を最後まで保証することを考えなければならない。
[報酬・手当等]
独身寮現物/配偶者手当は廃止/子供の扶養手当は支給/場長や責任者にはそれにあった手当を支給/賞与は8月、12月、3月で年間4.0ヶ月分程度を支給/乳量手当支給(頑張れば手当が貰える意識が高まる。)/自社は娘も婿も他従業員と同じ扱いの給与
[手を貸さない・口を出さないに関する質疑]
自分が手を貸せば早く終わる作業だが、それだと人間が育たない。任したのであれば、社長は見て見ぬふりを通す。何があっても耐える。それでも気になる場合はその場から居なくなる。に徹する。社長はたまに励ますことも重要。
[法人形態の決め方等に関する質疑]
1戸1法人は役のうえでは相談する必要がないから簡単だが、金銭面や信用度に課題がでてくる。今後を考えれば、それぞれの組合員が会社の仕組みを十分に勉強したうえで複数法人を経営することが望ましいのではないか。また、代表の報酬に差を付けることと、その仕組みを理解できるメンバーで構成することが大事である。
[法人で優先すべき順位に関する質疑]
給与が低く、独身寮等もなく、社会保障もない法人で優先すべきは、社会保障である。あと労働環境の改善も重要である。
[リーダーの決め方に関する質疑]
リーダーは親方が決める。
[その他]
欠員がでれば欠員配置するが、基本的にこの業務をやりたいと言えばその業務に付かせ強制しない。また、教育・研修は何にも役に立たないので実施していない。勉強したくない、聴きたくない人間に話しをしても全く意味がないからである。(能力のある人間は自ら質問してくる。)
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座学研修(2)
「酪農を支えるヒトづくり ―数多くの現場体験を踏まえて―」
きくち酪農コンサルティング株式会社
代表取締役 菊地 実 氏
数多くの現場を見て感じることは、働いている人に介入しすぎ。共同法人は介入しなさすぎ。である。大きな法人になると、お金、人事労務、牛、畑など、それぞれをわかっている人がいないと無理である。牛に詳しいから、値段に詳しいから成功する程度の考えでは経営者として欠けている。
投資することに優れている経営者は、単価とバランスシートを常に頭に置いているから継続的に投資ができる。先の西上加納農場はこれに優れており最終的に投資分を回収できている。
雇用においても、お金の使い方がうまくないと人は使えない。従業員は給料によって真剣さ(責任感)が変わる。
水槽に水がない。飼料が余っているなど、単純なことを見逃さない人材が優れた人材であり、こういう人材がマネージャーになる。マネージャーをどうやって育てるのかというと、勝手に育つので邪魔をしないという事が重要である。従業員がダメなところは経営者又は経営者の家族がダメにしている。ダメになった従業員は「どうしたら困るだろう。」という恐ろしい事を考えはじめる。乳頭をキレイに拭けと指示したら、乳頭を拭く事に時間をかけたため回転率が悪くなった。親方がなぜゆっくり拭くのかを問うと「拭けって言ったじゃないですか。」となる。
名札を見なくてもどこの組織の職員なのかわかるのは、その組織のカラーがあるから。そういうカラーが形成されていない農場に従業員が入っても従業員はどんどん止めていく。これは従業員が代わってもそういった悪いカラーは継続されていくし、変えるにはもの凄いエネルギーが必要となる。また、年齢、キャリアに関係なく、ダメな人間をリーダーにすると全てがダメになる。
従業員を採用する際は特別な人材を採用するのではなく、「素直で誠実」な人材を採用することが大切である。また、従業員は「誰のためになぜ働くのか」に気づく事が重要である。
先の西上加納牧場では、農場長と同級生の従業員に誰のために働いているのか聞くと「農場長のために頑張る。」と答え、農場長に聞くと「従業員のため。みんなの人生がかかっているから。」といっており、この事が従業員全体に浸透していっている。こういう従業員をつくれる経営者が成功する。
子は親がいると安心してチャレンジするのと同じで、経営者や家族が従業員の安全地帯にならなければならない。
座学研修資料
※ 心の窓と農場スタッフに関する資料を添付