根室生産農業協同組合連合会 業務ブログ

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平成24年度 釧路農業法人会研修

by 情報事業課

平成24年度 釧路農業法人会研修 「牛から学ぶ酪農経営」
                 菊地酪農コンサルティング 菊地 実氏
      日時:平成24年12月20日 13:30〜 場所:釧路市交流プラザさいわい

(1) 酪農経営を考える観点
  地域で経営がうまくいっている農場はその地域に即した合理的なやり方で経営を行っ
  ている。
  経営効率は規模が大きくなるほど下がってしまう農家と、維持または上昇する農家に
  分けられる。
  経営効率が下がってしまう農家は周りに手本になる農家が居ない(前例がない)
  ため、真似する事が出来ないため、上手くいかない事が多い。
  実際には規模が大きくなるほど経営効率が上昇している農家はごく一部である。
  牛群の淘汰率について、淘汰率は牛群の25%とされ、その内20%は乳房炎や蹄病の
  牛、残り5%は分娩後に死んでしまったか、死んだも同然の牛に分類される。
  この5%が経営効率悪化の最も大きな原因であり、その5%の頭数×3の頭数が経営の悪
  化に影響を与えると考えよとの事。
  死亡牛または死亡同然の牛が5頭居たら、×3の15頭が経営に影響を及ぼす。
  (バルク乳量や分娩間隔など)
  この考えを無視してやみくもに対策を立てても駄目である。

(2) ロスを少なくする
  経営悪化の原因となるロスは乳のロスと牛のロスが挙げられる。
  乳のロスとはどんな状態か?
  1:搾ったけれど乳房炎でバルクに入らない。
    これは乳房炎にならないように工夫しなければならない。
    乳房炎の発見ではなく乳房炎にならないように!
    注目すべきは潜在性乳房炎であり、原因はユニットがまっすぐついてない等些細
    な事が多く、まず潜在的乳房炎をとにかく無くす事。
  2:食った餌が乳になっていない。
    サイレージが悪い事が1つの要因として挙げられた。
    サイレージが悪い(不味い)と牛が量を食わない。するとエネルギー不足でケト
    ン体が増えてしまい、病気に繋がる。
  3:乳房の中の乳を合理的に搾ってない。
    まだ乳房の中に乳が残っている。ライナーのつけっぱなし等人的ミス。
    牛のロスとはどんな状態か?
    1:死んでしまった。
    2:死んだも同然。
    (1)にもあるように経営には×3の悪影響が及ぶと考え重大視すべきで、多くの
    経営者は牛が死ぬ事に慣れ過ぎている。
    対策としては、牛舎環境をなるべく草地(柔らかく衛生的な生きている草)に
    近づける事。死んだ草はバクテリアが大量発生してしまう。
    牛群全体には難しいが、分娩前くらいはこういう環境にしたい。

(3) 経営者の考え方
  ドベネックの樽を例にして、樽の一番低い板の部分(問題に対する原因)を底上げし
  ていくことが大事。
  うまくいっている経営は、必要なものには惜しまずきちんと投資する。(餌・労力・
  施設)回収するまで投資する。(士幌町の西上加納農場の社長のやり方)
  うまくいかない経営の共通点はうまくいっている段階で手を引いてしまう事。
  投資をやめてしまうと駄目になる農家が多い。
  乳量を上げるのは、餌食べさせる・水飲ませる等の「毎日同じことをきちんとやって
  るか?」が大事である。
  牛は人間の定時定作業に合わせて生活している。つまり乳量が上がらない等の原因は
  人間(特に経営者)にある。

(4) 牛を痩せさせない事。
  乾乳後期の栄養不足が与える悪影響について、分娩前にすでに牛が痩せてしまって
  いる場合、以下の悪影響がある。
  ・難産 ・空胎日数の延長 ・胎盤停滞(胎内の仔牛に栄養が行かない)
  牛の繁殖成績を低下させる要因は乾乳後期の食欲不振。この段階できちんと餌を食べ
  てエネルギーが蓄えられていないと結局、分娩時に難産や胎盤停滞などが起こり、分
  娩後も相変わらず食欲不振で乳も出ず、エネルギー不足により卵巣機能の回復も遅
  れ、初回授精も送れるし、授精しても受胎もし辛く、悪循環に陥ってしまう。
  また、授精後40~90日の期間にその仔牛の生涯の繁殖能力が決定されてしまうという説
  もある。
  結論は『乾乳期には餌を十分食わせて絶対に痩せさせない事!』である。
  経営者は乾乳期の牛にはケチらず投資する事が大事。

(5) 着眼大局、着手小局
 「着眼については、大局的視点から着眼し、着手については、足許の小さなところか
  ら着手しなければならない」
  酪農経営の世界もその通りで、足元を見直すだけでも色々な問題が発見できる。
  菊地氏が牛の写真を見せながら説明。
  1:水を飲む事について。
   ・水槽やウォーターカップがちゃんと牛が飲みやすいように設計されているか?
    首の部分にパイプがぶつかってたり、深すぎたりしないか?
    前足を揃えた状態で、無理なく水が飲める事が理想。
    深さは10~20センチが良い。
   ・水槽やウォーターカップが清掃されているか?水そのものは綺麗か?
    汚かったり臭かったりすると飲まない。
   ・水温は適切か?
    冬場など、冷たすぎると飲まない。
   ・水槽の設置場所は?
    牛舎の角に設置すると、逃げ場所が無い。飲んでる時は後ろは見えないし、
    弱い牛は飲むことを躊躇する。逃げ場所を確保できる場所に設置する事。
  2:餌を食う事について。
    ・食ってる牛、食って無い牛の見分け方。
     肋の開帳度で判断することができる。(ルーメンフィルスコア)
     肋の開帳が大きく膨らんでいる牛は食い込み十分。開帳が小さいのは食えて
     いない。
     また、栄養濃度が高すぎる事によって量が食えてない牛も開帳が小さい。
    ・嗜好性を調査する。
     複数の餌を山盛りにして餌漕に置き、どの餌が人気があるか調査。
    ・餌漕の設計は?
     牛舎では足を揃えた姿勢で餌を食うので、餌漕は高く設計するのが良い。
     餌を食いやすいと背中がまっすぐで、食いづらいと背中はまるまっている。
    ・炭カルや重曹等もとりあえず置いて食うか食わないか確認する事も大事。
    ・餌漕の角に前足が当たって、前膝の部分が損傷する事もある。
    ・餌が遠くに追いやられて届かない状態は、餌押しが必要。
     (2時間は餌漕に餌が無くても大丈夫で4時間だと放置しすぎ)
    ・体格と食う速度は比例する。
  3:蹄病について
    ・蹄病は発症する前に削蹄師を読んで処置せよ。それには牛から発せられるサイ
     ンを見逃さない事。
    ・分娩前に栄養(蛋白)をどれだけ吸収したかがその後の蹄病に影響する。
     栄養が足りないとツメも伸びないし蹄底も伸びてない。
  4:乾乳後期の牛の施設
    ・頭数入れ過ぎはダメ。また、頻繁に牛が入れ替わるため事も有り、密集した
     環境はストレスになる。「面積は広くする事!」
    ・「こんすい」が出来るようにする事。
     「困睡」・・・体の疲労を回復する事 「昏睡」・・・頭の疲労を回復する事
      それができるのは環境の影響をあまり受けない強い牛であり、弱い牛は出来
      ない。
     「こんすい」が出来るかどうかは面積と入っている牛の組み合わせで決まる。
      なので、やはり「面積は広くする事!」
  5:牛の体調の見分け方
    ・背中を丸めて頭が下がって立っている牛はどこか具合が悪い牛。
    ・冬場に糞がソーセージ状に繋がった状態で排出される場合は低温のため餌が
     凍っていることが考えられる。
    ・肛門・陰部・乳鏡の色が薄い(血の気が無い)場合は痩せてきている。
     これらも重要な牛からのサインである。
  6:トンネル換気について
    ・ある農場では通常のトンネル換気から、牛舎内に遮藪板を設置した換気体制
     に変更。結果牛に風が当たり、快適性が増し餌も食べるようになった。
     また、牛床が乾く事で乳房炎のリスクも減った。

(6) 分娩と牛の健康
   分娩後に死ぬ牛、または死んだも同然の牛は低カルシウム血症(以下低Ca)が考え
   られる。
   発生要因は高DCAD(イオンバランス:この場合は陽イオンに富んだカリウムが大量
   に含まれていると思われる)低Mg(マグネシウム)の飼料によるもの。
   水を十分飲ませ、酸化Mgを与える事が必要。
   周産期病の発生要因としては上記の低Caが発生する事による免疫力低下が乳房炎や
   胎盤停滞、第四胃変位、乳熱などを引き起こす。
   分娩前後の乾物摂取料の低下がNEFA(遊離脂肪酸)を増加させ、ケトーシスや脂肪
   肝も発症させる。
   飼料中の有効繊維が不足してルーメンアシドーシスも起こしてしまう。
   分娩後に周産期病を発症した牛としなかった牛を比べると、発症牛は乾乳期に毎日
   の行動パターンの規則性が乏しい事が解っている。
   (3)にも書いたが、定時定作業の規則性を重視する事が大事。

(7) 乾物摂取量と乳量の関係
  ・経産牛(搾乳牛+乾乳牛)の餌代 ÷ 乳代 = 50%~55% が一般的である。
   これ以上上昇する場合は、死亡牛・死亡同然牛が経営の足を引っ張っている。
   飼料高騰が問題なのではなく、飼料代に見合うだけの乳量が出ず、乳代(収益)が
   上がらない事が問題である。
  ・乾物摂取量と乳量の関係について
   維持に使われる乾物量は6kg。乾物1kgは生乳2kgである。
   乳量から乾物摂取量を求める場合、(乳量÷2)+6kgが乾物摂取量
   乾物摂取量から乳量を求める場合、(乾物摂取量−6kg)×2が乳量

(8) 総括
  最終結論は牛の「食って・飲んで・寝る」の完成度を如何に上げるかという事。
  それには「牛から物ごとを考え」、「牛にまかせ、牛に訊く」事が大事。
  そこから、目の前の事実確認と想像力で管理上要因・施設上要因が見えてくる。
  複雑な学説よりも現場で牛が示しているサインを見つけ、改善する事が大事。
  「難しい理屈や説明はいらない。現場で見て触れれば分かる」(本田宗一郎)
  失う牛と乳を3分の2にできれば、かなりの経営向上が見込めるとの事であり、
  問題は現場で発生し、現場に改善策も有ると言う事を改めて学習した研修であった。


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